*たわごとコラム

“子供のために”と思わずに作られた絵本のこと

Gisele de Verreの出版元であるseuilは、フランス国内の才能豊かなアーティストによる絵本を数多く発行する一方で、クヴィエタ・パツォウスカーやブルーノ・ムナーリなど、世界の優れた作品のフランス語版を扱ってる出版社です。
そんなSeuilのカタログは、絵本という“作品”を紹介する作品集のようでとても見ごたえがあるのですが、その中に、一人だけ日本人の作品が掲載されていて印象に残りました。 

その作品とは、五味太郎さんの「らくがき絵本 Part1&2」です。((書影はこちらで))
頁ごとに、落書きのヒントになるような五味さんのイラストが控えめに印刷されていて、
そこに読者が自由に描き足していくという趣向の本で、絵本というカテゴリーには収まりきれません。
この本は、プレシャスブックスでも以前にご紹介したことがあるのですが、その時のコメントはこんな感じ・・・

—子どもって「自分には絵がかけない」なんて思うことなんかあるのでしょうか?ペンを持ち、紙にペン先を当て、丸を一個描いただけだって絵は絵です。その丸は、満月かもしれないし、車輪かもしれないし、コップを上から見たところかもしれないし、もしかすると“暖かな気持ち”かもしれないのです。それなのに、大人になるにつれ「自分には絵が描けない」と思ってしまうようになったりします。この本は、そんな“大人”にもおすすめの一冊。五味さんがちょっとだけ、自由に絵を描く手伝いをしてくれます。頭を空っぽにして落書きをしているうちに、いつの間にか子どものように絵を描いている・・・というわけ。2.5cmも厚さがある本で、思いきり遊べます。—
要するにこの本は、絵を描くことのきっかけを与えてくれるのです。

Seuilのカタログには、書籍紹介の頁以外にも、ところどころに「らくがき絵本」のイラストが引用されています。 “読者が自由に描き込める余白”が用意されているイラストは、その余白そのものが“想像力・創造力”をはっきりと表しています。その余白が物語るものは、言葉がなくても通じるし、また言葉では説明できないものなのです。それこそが、Seuilが掲げるポリシーの根幹なのだということが、はっきりと伝わってきます。大人であろうと子どもであろうと、その本を手にすることで想像力や創造力をかきたて、何かの切っ掛けになるような作品、Seuilのカタログには、そんな絵本が並んでいます。

いつだったか、五味太郎さんを紹介するテレビ番組をやっていて、その時に聞いた言葉が忘れられません。
それは、「ぼくは“子どものために”なんて思って作品を作ったことは一度もない」というような内容のコメントでした。
「最近の子どもたちの本離れを、五味さんの力でなんとかしたい・・」という、ある出版社の人に対する返答の一部です。

「本を読まない子がいてもいいじゃない。それがその子の個性なんだから・・・」

五味さんは、自分で作りたいと思うものを無心に作って、結果的に子どもたちがそれに反応する、ということ。押し付けなくても、それどころか「本を読まない子がいてもいいじゃない」なんて言ってても、出会いの切っ掛けさえあれば、子供を自然に夢中にさせてしまうような魅力が、五味さんの作品にはあるんですよね。
もちろん、五味マジックは大人にも有効です。

ちなみに私が今見ている Seuilのカタログは、2003年版。日本作品の翻訳が増えているといいな〜。

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