*たわごとコラム

民話の種

先日浜松で、偶然「建て前」という建築儀式を目にしました。
「建て前」というのは、いわゆる“棟上げ”のことで、
簡単に言ってしまうと、家の骨組みを作って屋根を乗せる作業です。
浜松では、棟上げが完了した当日に、施主が組み上がったばかりの屋根に登り、
集まってくれた人にお餅やお菓子をばらまくという習慣があります。
浜松だけの習慣ではないようですが、実際に目にするのは初めてでした。

この儀式は、特定の人が招待されるわけでもなく、
日にちや時間が予め知らされるわけでもないそうですが、
近所の人たちが「そろそろあの家は建て前だね・・」と
いって、お互いに誘い合い、自発的に集まってくるそうで、
施主とは面識のない、まったくの他人でも参加可能とのこと。
通りすがり私も誘われましたが、法事の後で礼服姿だったこともあり、
お祝い事に参加するのは気が引けたので、端で見物だけさせてもらいました。

ざっと見渡しただけでも、老若男女100人以上の人が家の周りに集まっていました。
各々がスーパーのビニール袋などを持参しています。
特になんの合図もなく施主が屋根に登ると、やにわに全員がざわめき始めてスタンバイ。
そこに施主が、これでもか〜という程たくさんのお餅やらお菓子やらをばらまくのです。

みんな大きく手を伸ばして、こっちに投げて〜と催促しています。
地面に落ちたものだけを拾っている子供もいます。
エプロンでキャッチしているおばあさんもいます。
虫網を持参しているつわものもいます。

降ってくるものがなくなると、これがまた不思議なことに、
特に何の挨拶もなく、みんな収穫品を抱えて潮が引くように散ってゆきます。
“瞬間祭り”とでも言いましょうか、どこからともなく人が集まって
一瞬盛り上がり、すっと消えていく・・・
何かの民話で読んだ、動物たちの幻のお祭りを思い出しました。
伝承民話には、こういう風習が創作の種になっているものもあるかも知れませんね。

ちなみに、場違いな礼服姿で見物していた私に、
袋いっぱいに収穫を得た見知らぬお兄さんが、
お菓子を二袋、お裾分けしてくれました。
このエピソードも民話の種になるかしら?
(さらに…)

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