*たわごとコラム

犬を怖がる子—その2

・・・とういう訳で
朝、自宅のトイレ前で出会ったばかりの少年と、朝ごはんを食べました。
特に荒れた様子もなく、物静かで真面目そうな中学生・・・

夜中にパスタを食べた時、男同士でいろいろ話は済んでいるようだったので
ごはんの最中は他愛もない話をして、
「いつかバイトして返しに来てね」と帰りの電車賃を持たせて見送りました。

後で店主Bに聞いたところによると、
父親と喧嘩して家を飛び出し、電車に無賃乗車してあてもなくぐるぐる廻っているうちに
終電になってしまったので仕方なく駅でうずくまっていた・・・とのこと。

その日の晩、「ちゃんと家に帰ったかね〜あのこ・・・ 」などと話していたら
玄関の呼び鈴が・・・
「すいません、もう一晩だけ泊まらせてください・・・」
彼は再び戻って来てしまったのでした。

感情を押さえた声色で、ぼそっぼそっと話す少年・・
どうも、家には自分の居場所がないと感じているらしい・・・
これも何かの縁なのだから、きっちり言葉を受け止めたいと思うのだけれど、
彼の周りには見えないバリアがあるように感じられました
それは、彼が決して人と目をあわせようとしなかったからかも知れません。
少年の視線はいつも空間を漂っていて、言葉も宙にたち消えてゆく感じ・・・

そんな彼が、なんとなくクロッキーを怖がっているようだったので
「犬は苦手?」と訊いてみました。
すると彼は、視線をそらしながら、
「こっちをまっすぐ見るから怖い」と答えたのでした。

まっすぐな視線・・・

クロッキーは、遠慮も気兼ねもなくじっ〜と人を見つめます。
赤ちゃんや小さな子供もそうですよね。

無垢なものにじ〜っと見つめられて、
ふと視線をそらしてしまった経験が私にもあります。
ずっと昔のことだけど・・・
あの気持ちはいったいなんだったのだろう・・・
今はその視線が、この上もなく愛おしく感じられます。
でもそれって、いつからだったっけ?
・・そんなことを思った瞬間、
少年の気持ちが、少しだけ分かったような気がしました。

それからまあ、いろいろあって、後日少年は再びうちにやって来ました。
自分のお小遣いで、電車賃を返すために。
その時少年は、恥ずかしそうにちょっとだけ視線を合わせてくれたのでした。

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