*たわごとコラム

アンネの日記

「アンネの日記」は、小学生の頃の教科書に載っていたような記憶があります。

— 第二次世界大戦中、ナチスドイツのユダヤ人迫害を逃れるため、アムステルダムで2年あまりもの間、家族と共に潜伏生活を余儀なくされた少女。
常に連行の恐怖と隣り合わせだった屋根裏部屋での暮しの中でも、決して未来への希望を失わなわず、深い洞察力で時代を見つめ、思いの全てを日記に記した。–

言うまでもなく、アンネ・フランクは
実在の人物。
日記に綴られていることは、1940年代に実際に起きたことです。

小学生だった私は、学校で教わった「アンネの日記」を、
真摯な気持ちで受け止めていました・・・が
戦後生まれの私にとってみれば、やはりそれは“想像の域”。
現実に起きたことなのだと頭では理解していても、実感は伴っていなかったと思います。

その後、私は20代の頃に、アムステルダムにあるアンネ・フランクの家を訪れました。
一家が2年間身を隠していた建物は、アンネ・フランク財団によって保存され、
一般公開されているのです。

屋根裏部屋へと続く隠し廊下、それを塞ぐ大きな書棚。
小さくて、
簡素なキッチン。

アンネが空を仰いだであろう小窓・・・・

教科書に文字でつづられていたものが、実物としてそこにありました。

私にとって特に印象的だったのは、アンネの部屋の壁に無造作に貼られていた、
一枚のモノクロ写真です。
それは、女優のブロマイドのような美しい女性のピンナップだったのですが、
唇のところが、口紅を塗るように赤いペンでなぞられていたのです。

それがアンネによるものかどうかは、定かではありません。
けれどもこの時、
当時15才だった少女の思いが、はっきりとした現実味を伴って
突然“今ここ”に甦ってきたような感覚を覚えました。

日記につづられていることよりももっと現実的な、
日々の呼吸にも近いような心の動きに、思いがけずにふれてしまったような、
そんな感覚・・

その時から、私にとってアンネ・フランクは、
単なる教科書の登場人物ではなくなりました。

彼女は、少女らしく思い、悩み、憧れ、恋をし、夢を持ち、
“15年間確かに生きて”
ナチスの強制収容所でその生涯を終えたのです。

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