*たわごとコラム

クルテク再考

クルテクは、言わずと知れたチェコの人気キャラクター。

人気のキャラクター絵本 ・・というと、あまりにも商業ベースに乗りすぎて、
かえって食傷気味になってしまう人も多いのではないかと思います。

クルテクも、決して例外ではありませんが、
私はこの作品に、他のキャラクター絵本とは違う魅力を感じています。

確かに、ミレルさんの描くキャラクターはどれもこれもかわいいし、
ぬいぐるみやキーホルダーにするには、うってつけのフォルムですよね。
けれども、私が一番魅力を感じているのは、クルテクの性格です。

コマ漫画からアニメまで、たくさんのストーリーがありますが、
クルテクの優しさや誠実さが描かれたお話がとても多いのです。

例えば、KRTEK A MEDVEDI(クルテク と くま)という絵本のお話・・・

クルテクは、ピクニックに持って行ったお弁当のパイを、くまに食べられてしまいます。
くまが、お詫びのしるしにと、川で魚を捕ってプレゼントしてくれるのですが、
クルテクは、後でそっとその魚を川に戻してあげるのです。

“お詫びのしるし”とか“恩返し ”まではよくある展開です。
多くはここで「めでたし、めでたし」となります。
その後のお話にクルテクらしさが出ているこの絵本が、私はとても好きです。

その他のお話でも、地上に落ちた星を空に戻してあげようとしたり、
病気のねずみのために薬草を探してあげたり、
クルテクはいつも他者のために献身的に行動します。
また、自分が何かを望む時は、誠実に懸命に努力するのです。

といっても、大人の意図が露骨に感じられる、
いわゆる“躾け絵本”とは、在り方がまったく違います。

私は、制作者がクルテクのように優しく誠実でなければ、
こんな作品は作れないと思うのですが、どうでしょうか?

翻訳されている作品はそれほど多くありませんが、クルテクの絵本は
言葉が読めなくても比較的ストーリーが分かりやすような気がします。

それは、クルテクの 優しさや誠実さが、文化や世代の違いを超えた
普遍的なものだからではないでしょうか。

人なら誰でも持っている善なるもの(あるいは“求めてやまないもの”
と言ってもいいかもしれません)を素直に表現しているからこそ、
言葉がわからなくても理解できるのではないかと思うのです。

子供がチェコ語のクルテク絵本を読んでくれた、というお便りも何度かいただきました。
もちろん、チェコ語の文章を訳してくれたという意味ではありません。
子供たちはきっと、本能でクルテクの気持ちを察しているのです。

4歳になる知人の娘さんも、困ったクルテクの絵を見て、
何故困っているのかを懸命に思いやっていました。
クルテクの優しさや仲間の協力でハッピーエンドになったこともちゃんと理解して、
一緒に喜んでいました。
この時は、むしろ文章など分からなくてよかったとさえ思いました。

クルテク絵本に表現されている優しさや誠実さは、大人にも子供にも
言葉を超えて連鎖するような気がします。

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