*たわごとコラム

「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」展

静岡県三島市の佐野美術館で開催中の
「堀内誠一 旅と絵本とデザインと」展を観てきました。

小規模ながら幼少期の作品から旅先でのスケッチまで展示されており、
かなり見応えのある内容でした。

展示室は大きく3つに分かれていて、展覧会タイトル通り、
それぞれの部屋に堀内さんの旅と絵本とデザインにまつわる
多彩なアートワークが展示されています。

Precious Booksでは、絵本作家としての堀内さんを紹介することが多いのですが、
周知の通り彼は、“後世に残る数多の作品を生み出した天才的デザイナー”であり
“世界28カ国300都市を訪れた旅人”でもあったのです。

もちろん、展覧会を観れば、
そんな単純な言葉では表現できるはずもない程、多才な人であることは一目瞭然。
堀内さんの偉大さについては今更ここで書くまでもありませんが、
今回感じたことを、少しだけ書き留めておくことにします。

この展覧会で、私が一番多くの時間を費やしたのは“旅”の展示室でした。
展示されているものは全て、もちろん堀内さんの作品で、
つまり彼が“アウトプット”したものなのですが、
旅にまつわるアートワークは、むしろ“インプット”の印象が強いのです。
旅によって“インプット”されたものが、
デザインや絵本という“アウトプット”を生み出している・・・
堀内さんにとって旅は、 つきることのない創造の源泉だったということが、
今回の展覧会ではとてもよく伝わってきました。

彼は、まだ海外旅行が一般的でなかった時代に世界中の国々を旅して、
独自の視点でとらえた各地の文化や風俗を、
個性あふれる スケッチやスナップ写真、エッセイによって日本に紹介しました。

もちろん、それらは雑誌の記事になり、あるいは書籍として出版されているので、
れっきとした仕事(=アウトプット)だったのですが、 実際にその原稿を目にすると、
『仕事のために』というよりも、ほとんど衝動的に
旅先で得たものを記録していたのではないかと感じられるのです。

その記録は、ちょっとしたメモから出版用の原稿に至るまで、息をのむ程に詳細です。
まるで、感動したものの全てを、一つの取りこぼしもなく
細かく記憶に焼き付けようとしたかのように。

それを仕上げるには、膨大な時間とエネルギーを要しただろうと思われるアートワークが
たくさん展示されていましたが、堀内さんにとって、
旅にまつわる仕事はあくまでも“インプット”で、
決して消耗してしまうことはなかったのではないか、それどころか、
楽しくて仕方なかったのではないかという印象を受けました。

街角の何気ない風景。
普通の人たちの普通の暮らし。
通りがかりの子供たちの笑顔。
人間が長い歴史の中で作り出してきたありとあらゆるもの・・・

その視線は、特に人間や人間の作り出したものに向けられています。

そんなものたちを、堀内さんはまるで宝物の在処を示すかのように
ひとつひとつ細かく記録しています。
それらを目にすると、「世界はこんなにも愛すべきものであふれているよ」という
堀内さんの 声が聞こえてきそうです。
彼が、この世界の“ディテール”のひとつひとつを味わい、
心から愛しんでいたことが伝わってくるのです。

この世界を愛し、生きることを十二分に楽しんで、堀内さんは逝きました。
堀内さんにとっては、天国もきっと、未知の旅先。
今も、いろんなものにワクワクドキドキしながら、
たくさんのスケッチを描いていることでしょう。

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堀内誠一 旅と絵本とデザインと 
平成22年7月10日(土)-8月29日(日)
静岡県三島市 佐野美術館

http://www.sanobi.or.jp/tenrankai/2010/horiuchi.html

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