*たわごとコラム
版の違い
出版年が異なる同じタイトルの本3冊が、今、手元にあります。
Jiri Trnka の代表作の一つ、「アンデルセン物語」です。
これまでにも何度か入荷しご案内してきましたが、
今回入荷したのは1963年版、1973年版、1981年版の3冊で、
’63年版は残念ながらカバーがないのですが、体裁はいずれもほとんど同じです。
Trnkaの資料によればこの作品の初版は1957年で、それから体裁もほとんど変わらないまま幾度となく版を重ねました。
いったい何度重版されたのか資料には記載がありませんし、見当もつきません。
この本のように、ひとつの作品がほとんど体裁を変えずに何年にも渡って、しかも何度も出版されるという例は、
そんなには多くないのではないでしょうか。
良い機会なので、3冊をじっくり見比べてみることにしました。
まず、本体の表紙は布張りに金の箔押しで、ほぼ同じです。
本を開いてすぐに分かるのが、中頁に使われている紙質の違い。
一番古い1963年版は、アイボリーの少しざらつきのある紙で、1981年版は今の微コート紙に近い風合いです。
紙質が違えば、同じ印刷機を使っても仕上がりの色味が違ってきます。
もちろん、10年も経てば印刷技術もかなり変化していますので、当然同じイラストでも結構印象が変わってきます。
同じイラストのページを同じ条件で撮影してみました。
1963年版
1973年版
1981年版
こうして比べてみると、その違いがはっきり分かります。
1963年版は色味が強くて、影の部分がはっきりしています。版が新しくなるにつれ、
微妙な色のニュアンスが柔らかく表現されている感じです。
残念ながら原画と見比べることができないので、どれが一番Trnkaが描いたものに近いのかは分かりません。
基本的に、出版社はなるべく原画に忠実に印刷することを目指すと思うのですが、全く同じように仕上げることは、最新の技術を使っても不可能です。
ただ、一般的に技術が進歩した現代の印刷物の方が、より原画に近づけることができると言えるかもしれません。
けれども私は、本は、印刷製本されて本になった時点が完成品だと思っているので、イラストが原画に近いかどうか以上に、仕上がった本自体が全体的に魅力的かどうかの方が大切だと思っています。
色に深みが出ている古い版と、微妙な色味が再現されている新しい版、どちらにも違った魅力があって、そこから先は好みの差。
プレシャス・ブックスが新古どちらの本も扱う理由でもあります。
1963年〜1981年のチェコの時代背景や、印刷技術の移り変わりなども加味しながらこの3冊を見比べると更に思うところがありますが、今回は長くなってしまったのでまた改めて。
この3冊は近日中に新着UPします。