*たわごとコラム

乗りかけた舟で龍宮へ

「乗りかけた舟で龍宮へ。」

メアリーはアメリカ人。ニューヨークに住んでいて、アジアへの旅行はこれが初めて。
団体旅行が嫌いで、これまでにもいろいろな国を一人で旅した・・・。
駅から徒歩5分だと紹介された旅館に向かう途中、彼女が話してくれたこと。

思えば私は、海外で何度も同様のシチュエーションを経験をしてきました。
もちろん、声をかけてもらう方の立場で。
道に迷った時、宿が見つからない時、アクシデントに見舞われた時・・・
何度も何度も、たまたまそこにいた人の親切に助けられました。
目的地までわざわざ送ってくれた人もいますし、
一緒になってトラブルを解決してくれた人もいます。
その後その人たちは、何の見返りも求めずに姿を消してゆきました。
だからこそ私は、彼女に声をかけずにはいられなかったのです。

私も同種族なのだということを伝えると、
彼女は、これまでに旅先で経験してきたことをあれこれ話してくれました。
いろいろな街で、いろいろなところに泊まり、いろいろな経験をしたのだと。

“いろいろ”という言葉には、光も影も含まれています。
一人で旅をすればなおさらのこと、そのどちらも経験することになります。
そして、それが自由旅行の醍醐味。
何が起きてもそれを楽しめる感覚がなければ、
得られるものが半減してしまうのだという旅へのスタンスを、
私たちは短い会話の中で充分に共感し合うことができました。

実を言うと私は、旅行案内所で紹介された旅館について、ちょっと不安を抱いていました。
その旅館は駅へと続く大通り沿いにあるので、
どのような雰囲気のところなのかだいたい見当がついていたのです。
もちろん、外から見たことがあるだけですが、古い上に独特な雰囲気がある旅館です。
純和風であることには違いありませんが、なんというか、
「千と千尋の神隠し」風、というか・・・ある意味アミューズメント的というか・・・

なので、メアリーには古いジャパニーズ・スタイルでも大丈夫か、
かなり念を入れて確認しました。
“どんなことでも楽しめる感覚”からか、彼女はは迷うこともなくOKだといいましたが、
紹介者の立場になってみると、そう簡単に「No problem!」とはいえません。

旅館にたどり着き、古い硝子戸をガラガラと開くと、
予想通り・・・
日本人の私でさえ軽いカルチャーショックを受けるような佇まいが、
目に飛び込んできたのでした。

・・・つづく

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