*たわごとコラム

青を求めて・・・その5

日本画家の堀文子さんは82歳の時、
ヒマラヤに咲く幻の花、ブルーポピーをを見るために、
5000メートルの高地を訪れています。

「ヒマラヤの青い妖精」と呼ばれるその花は、
低地では見ることができない、まさに“高嶺の花”。
ヒマラヤ山脈4000m以上の高山帯に自生するケシ科の植物です。
(今では、この花に魅了された世界の園芸家たちが栽培に成功していて、日本でも見ることができるようになっているらしいのですが、環境が異なればおのずと花姿も変化します。「青い妖精」は、やはりヒマラヤにしか住んでいないようです。)

堀文子さんは、死を覚悟してこの旅を決意したといいます。
82歳にもなる堀さんをそこまで突き動かした“青”とは、どんな色なのでしょうか。

世界中から人を呼ぶ“幻の青”はイタリアにも存在します。
ナポリの南約30km・カプリ島にある青の洞窟(Grotta Azzurra)。
もうだいぶ昔のことになりますが、私もその青を見るためだけにこの島を訪れました。

この洞窟は断崖絶壁の入り江にできた海食洞で、
手漕ぎの小舟に乗って行くことしかできません。
入り口はとても狭く、天候や波の状態によってすぐに水没してしまいます。
条件が整っていても、2.3人乗りの小舟がくぐり抜けるのがやっとで、
船頭さんが、入り口に張られた鎖を引いて小舟を洞窟内へと進める時、
乗客は体を船底に沈めなければなりません。
決して容易に行ける場所ではありませんが、
それでも世界中の人が“幻の青”を一目見ようとやってきます。

確かにその青は、言葉ではとても表現できない程に神秘的な色でした。
この世には、こんな色が存在するのかという驚きが、細胞の隅々にまで染み渡りました。
何枚か写真を撮りましたが、後で見てがっかり。
“幻の青”は、その場所で、その時にしか見られない色なのです。

空を仰げば、青はいつでもそこにあります。
それなのにこの世には、遠い異国の人をも呼び寄せる“青”が存在する・・・
その事実に、不思議な感動を覚えます。

それにしても・・・
人間は、わざわざ“青”を見るためだけに、
空を飛び、山を越え、海を渡り、時には命までかけて旅をする動物なのですね。

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写真では無理・・・

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