*たわごとコラム

パンチのおじいさん

いつも行くお魚屋さんの近くに、
クロッキーのことをパンチと呼ぶおじいさんが住んでいます。
以前飼っていた犬が、クロッキーとそっくりなのだと
写真を見せてくれたこともありました。
黒くて麻呂眉毛にソックスをはいているところは確かに似ているのですが、
私の印象では、“似ている度”30%。(苦笑)
けれどもおじいさんにとっては、パンチを思い出すのに充分な特徴なのでしょう。

時々、畑仕事用の軽自動車に乗ったおじいさんと行き会うこともあるのですが、
その度にわざわざ車を止め、ウィンドウを開けて声をかけてくれます。
クロッキーを抱き上げて窓に近づけると、
まるで孫を見るような優しい目で「よしよし」と言いながらなでてくれるのです。

昨年暮れのよく晴れた日のこと、二人と一匹で山沿いの道を散歩してしていた時に、
たまたま畑仕事をしに来ていたおじいさんから声をかけられました。
それまで知らなかったのですが、その山の斜面におじいさんのみかん畑があったのです。

「ちょっと寄ってかんか?」

おじいさんの後について細い坂道を登ってゆくと、急に視界が開けて
小さな町並の向こうに海が広がっていました。
その日は本当にいいお天気だったので、半島や島もはっきり見えて
息を飲むような絶景でした。

「わ~~~~~~~~~」 思わず溜息・・・

「ここにパンチが眠っているんだよ」とおじいさんがポツンと言いました。
ふと見ると、足元に小さな墓石が。
「ああ、それはな、先代が飼っていたシロという犬で、ワシのおやじがつくったのさ」

パンチのお墓は、さらに坂を登ったところの、大きなみかんの木の下にありました。
「息子が、ここがいいといったのさ。ここからだと、家がよく見えるから」

確かにその場所からは、 おじいさんの家がよく見えました。
「パンチは、よくここに一緒に来て、
気がつくと一人でトコトコ坂を降りて、勝手に家に帰っていたんだよ」

パンチもシロも、なんて幸せなのでしょう。
昔、犬を飼うと言えば、ほとんどが番犬・・・
現代のように家族として扱われる犬は少なかったと思います。
きっと先代さんもおじいさんと同じように無類の犬好きだったのでしょう。

お日様の光が降りそそぐ天国のようなみかん畑で、
懐かしい家を眺めながら、パンチが元気に走り回っている姿が見えるようでした。
昔も、今も、同じように・・・・

そんなおじいさんに縁ができて、クロッキーも幸せのお裾分けをもらっています。

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