*たわごとコラム

裏山で出会った堀内誠一さん

先日、思いがけないところで堀内誠一さんについての話を聞く機会がありました。

裏山に住んでいる陶芸家Mさんのお招きで工房を訪れた時のこと、
奥様にとってのプレシャス・ブックが「ぐるんぱのようちえん」なのだという
お話を伺いました。
以前奥様は保母さんだったそうで、絵本に触れる機会が多かったのだそうです。

「当時は毎日のように子供たちに絵本の読み聞かせをしていたんだけど、
 園児の中に、特に“ぐるんぱのようちえん”がお気に入りだった子がいたの。
 知的障害のある子だったんだけど、 毎日のように“ぐるんぱのようちえん”を
 私のところに持って来てね、 読んであげる度に泣くの。
 毎日のように読んであげるんだけど、その度に涙を流すの」

そのとき以来、「ぐるんぱのようちえん」は、決して忘れることのできない
特別な一冊になったのだそうです。

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話はそれで終わりではありませんでした。

ご夫妻は、数年間メキシコで陶芸の指導をしていたことがあり、
現地に赴く途中、飛行機の乗換えのために立ち寄ったアメリカで、
偶然に堀内誠一さんに出会ったというのです。

「予約していた部屋がオーバーブッキングでね。
 その相手がたまたま 堀内誠一さんだったの。
 私たちの方が後に到着したから、結局部屋がとれなかったのよ 。
 それを知った 堀内さんは、私たちに本当に親切にしてくださって、
 街を案内してくれたり、ごちそうしてくれたり・・・
 お話を聞いているだけでも楽しくて、本当にすばらしい方だった・・・ 」

その時には「ぐるんぱのようちえん」の作者だとはまったく気がつかなかったそうで、
後になって著名なアーティストなのだということを知ったのだそうです。

「『日本に帰ったら、またお会いしましょう』って言ってくださって、
 それはそれは楽しみにしていたのに、
 私たちが帰国してすぐにお亡くなりになってしまったのよ 」

堀内さんは、ここからそれほど離れていない街に家を建てる予定だったそうで、
いつでも会えますね、と住所を交換しあったのだとか。

「もしもまだご存命だったら、 今ここで一緒にお酒を飲んだりしていたかもしれないわ。
 本当に本当に残念・・・・」

今ここで一緒に・・・?
私は一度も堀内さんにお会いしたことがありませんが、
こんなところでこんなふうに、堀内さんの人となりに触れることになろうとは、
思ってもみませんでした。

これまでに、堀内さんの作品を何冊も何冊も手にしました。
絵本好きなら、堀内さんの作品に出会わずにいることの方が難しいくらいに、
今でもたくさんのタイトルが出版されています。
そしてこれからも多分ずっと版を重ねてゆくことでしょう。

私がこんなふうに思いがけない場所で、今は亡き堀内さんに出会ったように、
今後もたくさんの人が、いつかどこかでその作品に出会い、
あるいは、生前の彼を知る人たちの語り伝えから、その人柄を偲ぶことでしょう。

堀内さんは日本に溢れています。

それは言うまでもなく、彼の作品がいろいろな意味で優れているからですが、
テクニックだとか経歴だとかいう前に、
作者である堀内さんの人柄が、それらの作品に深く投影されているからなのだと
今回Mさんの話を聞いて、しみじみと感じたのでした。

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