*たわごとコラム

子供は子供だった頃

高校1年生のY君を見ていると、ある詩を思い出します。

子供は子供だった頃
いつも不思議だった
なぜ 僕は僕で君ではない?
なぜ 僕はここにいて そこにいない?
時の始まりは いつ?
宇宙の果ては どこ?
この世で生きるのは ただの夢?
見るもの 聞くもの 嗅ぐものは
この世の前の世の幻?
悪があるって ほんと?
悪い人がいるって ほんと?
いったい どんなだった
僕が僕になる前は?
僕が僕でなくなった後
僕はいったい何になる?

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1987年に封切られたヴィム・ヴェンダース監督作
「ベルリン天使の詩」という映画の中に出てきたペーター・ハントケの詩です。
この映画は、私にとって最も印象に残る作品のうちの一本です。

高校生は、大人と子供の狭間にいて、
この詩のように、子供の頃を懐かしむ大人のような心持ちにはなれないし、
かといって、“時の始まり”や“宇宙の果て”のことばかり考えていたら、
先行き不安だよと大人たちに脅されて、理系か文系かなんて不可解な問いに
悩まなければならない・・・

社会の不条理さを感じ始めた思春期の子供たちが、不安定になるのは当然です。

時が経ったというだけで、私もいつの間にか大人側の人間になっていました。
高校生に「理系か文系か・・・」みたいな問いを強要するのは、
同じ大人として本当に心苦しいです。
だからといって、この社会の不条理を即解決する方法など
どこにもないというのが現実です。

「子供は子供だった頃 」と、この詩は繰り返します。
どうして、「大人は子供だった頃・・」ではないのでしょう?

詩人は、大人になっても子供の頃のあの純粋な感性が
完全に失われてしまうことはないのだという希望を
表したのではないかと私は思うのです。
たとえ忘れ去られていたとしても・・・

きっと、傷つきながらも子供の頃の感性を忘れずに持ち続けた大人が、
こんな詩や映画を作り出し、この世界に光を灯しているのでしょう。

この映画は、こんな社会でもまったく捨てたもんじゃないよと
教えてくれます。

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