*たわごとコラム

楽にはなったけど、つまらなくなった。

今月、いくつかの締め切りが重なっていて、
先月末からいつもにもましてPCの前に座っている時間が増えています。

かつては、紙や定規やペンや絵の具や、
種々細々とした材料や道具で机の上が埋め尽くされて、
納期の翌日などはもう、仕事部屋はめちゃくちゃでしたが、
今ではPCと周辺機器を動かすだけで仕事ができますので、
そんなことはありません。

例えば本を一冊作るにしても、以前は
線は一本一本手描き、文字は写植を手貼り・・・
何をやるにしても手作りの要素がありましたから、
とにかくものすごい時間と手間がかかりました。
けれども今では、PCの中で何もかもが出来てしまいます。

それはもう、比較にならない程作業効率が上がりました。
インク詰まりでペン先がダメになることもなく、紙が湿気で波打つこともなく、
絵の具が固まってしまうこともありません。
くしゃみで線が歪むこともないし・・・ (苦笑)

PCの中では、コンマ何ミリという精度で正確な線が引けます。
経験がなくても、不器用でも、徹夜明けでも、
くしゃみをしていても、その気がなくても、
マウスをちょっと動かすだけで、どんな線でも魔法のように描くことが出来ます。

手作業では難しかったことが簡単にできるようになって、
表現の幅も広がりました。

そういう意味では、何もかもが“いいことずくめ”・・・のはずなんですが、
なんなんですかね~、この以前とは全く質の違う疲労感・・・

もちろん、運動不足やテクノ・ストレスは自覚しているのですが、
感じているのはそれだけではありません。

指先で紙の質感や厚みを見たり、絵の具のにおいを嗅ぎながら 色を塗ったり、
そういった、五感を駆使することが激減して 、“作ることの楽しさ”のようなものが、
減ってしまったのかもしれません。

楽にはなったけど、つまらなくなった。
といったところでしょうか。

ちなみに、今手元に、参考資料として預かっている中国の本があります。
非常に凝った作りの本で、印刷製本の技術のみならず、デザインも秀逸です。
一昔前の、「日本の技術は世界一」という定説が崩れつつあることを思い知りました。

この本をよく見ていると、私が今使っているものと、
同じソフトを使って制作されていることが分かります。
といいますか、もう世界中どこでも、大方同じソフトが使用されていると思います。

世界中誰もが、同じような機械と同じようなソフトを使っているのですから、
差がなくなってくるのは当然のこと。
そこから先はセンスの問題で、それこそがオリジナリティを生む唯一の要素なのですが、
PCの中だけで作業をしていると、
それすらも画一的になってしまいそうな危機感を覚えます。
多分、PCの作業そのものが五感を鈍らせてしまうからなのでしょうね。

良い仕事をするためには、机を離れて五感を刺激しなければ!
今の仕事が一段落したら、桜でも観にいこうかな・・・
(と、遊ぶ理由をこじつけてみた・・・笑)

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