*たわごとコラム

モヤーノ坂の古本屋

マドリードの王立植物園の南にクラウディオ・モヤーノ通りという
大きな坂道があって、その脇に常設の小さな小屋が軒を連ねています。

それらは全部店主の違う古本屋で、通称「モヤーノ坂の古本屋」と呼ばれています。

帰国日の朝、開店が何時なのかも知らないまま、10時にもなれば開くだろうと
モヤーノ坂を目指しました。

10時5分前ぐらいに到着して、開いていたのは一店だけ。
唯一オープンしているその店には、既に何人ものお客さんが集まってきていました。

私のように気が早い人たちが、とりあえず開店しているその店を物色しながら、
他の店が開くのを待っている様子・・・

「ちょっと早過ぎたかな・・・」

時間つぶしに近所を散歩して、戻ったのが10時半頃。
4〜5軒のお店が、ようやく開店準備を始めていました。

とりあえず、開いている店を端から順番に覗いてゆきました。
表に並べられているのは、ほとんどがいわゆるユースドの本で、値段設定も安めです。
古い本や貴重な本は小屋の中に置かれているので、
ウィンドウショッピングというわけにはいきません。
中に入るのに、ちょっとためらいを感じます。
なにせ狭いので、出店準備をしている店主の邪魔になる・・・

それでも、ためらっていては本当に面白そうな本は見られないので、
店主が外で作業をしている間にサササッと入り込みました。

が・・・店内はほとんど倉庫化していて、短時間で何かが見つけられるような
状況ではありませんでした。

そうこうしているうちに、店主が外に並べる本を取りに戻ってきて、
探索はその時点で終了・・・
そんな私に店主は「気にしないで、ゆっくり見ていってよ」というそぶり。

そこから会話が始まって、

「日本から来たの?うちの息子はさ、
いつも『ドラえもん、ドラえもん、ドラえもん』だよ。
まあ、僕も子供の頃は、マジンガーZが大好きだったけどね。
マジンガーZはかっこいいヒーローだけど、
なんでうちの息子はドラえもんなんだろう?
とにかくいっつも『ドラえもん、ドラえもん、ドラえもん』さ。」

そうですか、そうですか、スペインにも日本のアニメや漫画が
しっかり浸透しているんですね〜。
しかも、マジンガーZの時代からですか。

大方どこの国に行っても、日本のアニメや漫画の絶大なる影響力を肌で感じます。

私もマジンガーZ 世代だと伝えたら、「うそだろ〜」と大袈裟に驚いてくれたので、
大きいな声でお礼を言ってその店を出ました。

すると、なにやら人だかりができている店が・・・・

結局それは、10時前に唯一オープンしていた店でした。
開店時よりもさらにお客さんが増えていて、明らかに他の店とは一線を画しています。
つまり、他の店が開店していなかったために人が集まっていたのではなく、
その店が特別魅力的だから(それも、おじさま達にとって)だったようです。

再度その店を覗いてみると、店主らしからぬご老人が段ボール箱を開けては
中の本を取り出しています。
それを、周りのおじさま達が待ちかねたように物色していました。

異邦人の私には、何がそんなにおじさま達を魅了するのか、
到底計り知ることはできませんでしたが、
確かに、そのご老人が段ボール箱から取り出す本たちは、とても古びていて
明らかに一般のユースド本とは違うオーラを放っておりました。

結局、11時半を回っても、
半分以上の店は開く気配すらも感じられず、短期旅行者としてはタイム・アウト。

まあ、一部の店しか見られませんでしたが、
『こういうスタイルの古本屋もいいな〜』と思った次第です。

古本屋に限らず、例えばどこかの公園にこういう常設の小屋があって、
ある日は古本マーケット、ある日はファーマーズマーケット、ある日は・・・
というような使い方をしたら、地域の活性化にも繋がるんじゃないかしらと、
そして、そういうことは行政がやるべきなのではないか・・・などと、
つらつら夢想しながら帰路についたのでした。

(そういえば、チェコのプラハには、そういった常設の
マーケット・プレイス<小屋ではありませんが、屋根付きのブース>がありました。)

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