*たわごとコラム

物語の入り口

最寄り駅の駅前に、無人の小さな小屋が立っています。

看板にはタクシー会社の名前が書いてあって、電話番号まで記載されているのですが、
この小屋に人がいるところを今迄に一度も見たことがありません。

この街に引っ越してきた時にはもう、同じ状況でここに建っていましたから、
少なくとも10年以上は使われていないことになります。

そんなに長い間使われていなければ、普通はかなり傷んでしまいそうですが、
状態は当時からあまり変わっていないように見えます。
かといって、誰かが整備をしているふうでもありません。

今年も桜が咲き、散り、間もなく夏が巡ってきますが、
この小屋だけは、まるで時間が止まってしまったようにここにたたずんでいます。

何かに利用できそうで、見るたびにいろいろイメージが膨らむのだけれど、
一方で、このままずーっとこのままであって欲しいという望みがあります。

10年間もそんな思いで見つめてきたので、なんだか思い入れが強くなってしまい、
もしも鍵を開けてこの扉を開いたら、ここじゃないどこかの世界に繋がっていそう。

おそらく今後も、ずっと開くことのない物語の入り口です。

C1504-9

 

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