旅の本 | PRECIOUS BOOKS

*旅の本

古本の不思議な魅力・・・・使えない旅行ガイドブック

旅行ガイドブックだけは、最新版でないと役に立ちません。たった1年でも、世の中の状況ががらっと変わってしまうので、具体的な情報が掲載されているガイドブックほど、陳腐化もはやいもの。昔のガイドブックをたよりに知らない街を訪ねたら、すぐにでも路頭に迷うことは必至です。古本屋さんで、数年前のガイドブックが売られているのを見かける度に、『売れるのかしら?』・・といつも思っていました。

ところが、この春訪れたイスタンブールで、私は45年も昔の古~いガイドブックに心を奪われてしまいました。イギリスで発行されたヨーロッパのツーリングガイドで、西欧と北欧に加え、トルコ・ユーゴスラビアの情報が国別に掲載されています。当時このガイドブックを手に、イスタンブールを訪れた旅行者がいて、なんらかの理由で本を手放した?・・・ということ。例えば、イスタンブールがことのほか気に入って、そのまま住み着いてしまったとか?あるいは、どこかに置き忘れてしまったとか?この本は、誰がどこからトルコに運んできて、どうして古本屋で売られることになったのか?本の間にはアテネの土産物屋のショップカードが挟まっていたので、持ち主は、ギリシャ経由でトルコ入りしたのかも知れません。ヨーロッパから陸路で来れば、ギリシャを通るのが最もスタンダードなコースだし・・・
なんて、あれこれ思いを巡らせながらページをめっくっていたら、すっかりこの本が気に入ってしまいました。

体裁は現在のガイドブックと変わりませんが、地図などは一切掲載されておらず、写真も載っていません。各国情報の冒頭に、その国をイメージする?花をモチーフにしたイラストと、ところどころに“箸休め”ならぬ“目休め”のカットが添えられているだけです。内容はというと、なんとか迷わず観光できるかな???という程度、もしも迷ったら“度胸”でカバーしてください、という感じ。といっても、“トイレ”が現地の言語でなんと言うか、なんていう細かな情報も載っていて、なかなかどうして侮れません。歴史的建造物やミュージアムなどの観光ポイントについては今も昔もほぼ同じだけれど、ユーゴスラビアは、今はもう無き国・・・変わってしまったものと変わらないものが、くっきりと輪郭を帯びて見えてきます。

現行のガイドブックは、旅情をさそう鮮やかな写真が満載で、それを目にしただけで空間をワープして旅を疑似体験できますよね。この本を読んでいると、空間だけではなくて、時をも越えていくような・・・そう、時空間を越えて旅をしているような、不思議な感覚にとらわれます。イスタンブールは今もあるけれど、“45年前のイスタンブール”は、もう記録と記憶の中にしか存在しません。古いガイドブックは、そんな、今はもう無き街へといざなってくれるのです。
私は帰りの飛行機の中で、45年前のヨーロッパをぐるっと一周しました。こういう旅の仕方もなかなかおつなものですね。

どうせ使えなくなったガイドブックなら、なるべく古いものがおすすめ。
その方が遠く~に行けるからね。

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