*たわごとコラム

青い街の青い本屋

こんなふうに本屋の報告ばかりしていると、
「本屋巡り」が目的の旅に映ってしまうかも知れませんね。
でも、本当は違うんです。

私の中では、今回の旅で”本”が占める割合は5%ぐらいです。
それでも、通りかかれば入ってしまう・・・
やっぱり根っからの本屋好きなのだと自覚しています。

これが最後のレポートになりますが、今回の旅で私が一番気に入った街の本屋です。
モロッコ北部の、Chefcauenという山間の街で、唯一見つけた本を売る店。

この本屋通り沿いを進んだ先に宿をとりましたので、
何度も通りかかりましたが、店主の姿を見たのは一回限り。

一応、毎日店は開いていましたのでちゃんと営業はしているようですが、
なんだかいつも無人の売店みたいな 雰囲気が漂っておりました。

店先に並んでいるのはマガジンやらテキストブックやら、
観光客向けのポストカードやいにしえの写真などなど・・・

新刊本なのか、古本なのか・・・
はたまた、新刊で入荷したものの、そのまま時を経て古くなってしまったものなのか・・・
今ひとつよく分かりません。

薄暗い店内に入っていきますと、無造作に積み上げられた本の中に古い机が置かれていて、
飲みかけのミントティーが一つ。

しばらく待ってみましたが、店主は結局現れませんでした。

いったいぜんたいどうしてこの店が営業を続けられるのか分からないけれど、
もしかすること、スーパーもコンビニもないこの街でなら、
こんな感じでも充分に生きていけるのかもしれないな〜、なんて
ちょっと羨ましく思ったりもしました。

どんなにゆっくり探しても、欲しい本は一冊もなかったけれど、
今回の旅で一番印象に残った本屋さんです。

桜貝。

桜貝。
インターネットで写真を見た店主Aが、数日前に近くの砂浜で拾ってきました。
「名前は知っていたけれど、こんなにきれいな貝だとは知らなかった。」とのこと。

目の前の砂浜に桜貝がいるなんて、ちょっと驚きでした。

考えてみれば、海辺の街に越してきて10年近くにもなるのに、
一度も桜貝を探したことがありませんでした。
この街の海岸は、数年前に整備工事が行われており、
昔のままの砂浜が残っているのはごく一部です。
店主Aが桜貝を見つけたのはそのエリアで、
人の手が入った砂浜には、一つも落ちていなかったそうです。

私は子供の頃、小さなガラスの瓶に入った桜貝を持っていました。
どこかのおみやげだったような気がするのですが、良くは覚えていません。
それがとても気に入っていて、
海に行く機会がある度に、なんとなく桜貝を探していました。

Aが拾ってきた桜貝を見て、そんな記憶が鮮明に甦りました。

桜貝は、本物の桜の花びらのように薄くて儚げです。
ちょうど、桜の季節だったので、
桜貝と桜の花びらを一緒に撮影してみたくなりました。

人類の宝物になった本屋

ポルトガル北部の街、ポルトの歴史地区にある、
Livraria Lello e Irmao レロ・イ・イルマオン書店。

「世界の美しい本屋」という話題になると、必ず紹介される有名な本屋さんです。

書店そのものの創立は1869年、現在地に移転したのが1906年とのこと。
ネオゴシック様式の店構えは、この街の中でもひときわ優美です。
現役の書店としては珍しく世界遺産に登録されており、
ハリー・ポッターのロケ地になったりもしたので、
世界中から観光客が押し寄せます。(私もその一人・・・笑)

それほど大きな本屋さんではないのですが、店内にはた〜くさんの人がいて、
多分そのほとんどが、「世界遺産の本屋」を観にきた観光客。
来店した人のうち、いったいどれぐらいの人が実際に本を買うのか・・・

何年か前から店内での撮影が禁止されていますが、
知って知らずか、ポーズをとって記念撮影をしている人もいて、
「No photo!」という声が頻繁に響いていました。

重厚な本棚に並んでいる本は、
小説とかレシピ本とか、児童書とか写真集とか・・・
ごく普通の品揃えで、あくまでも地元の人たちに向けた
”街の本屋さん”というスタンスを守っているようです。

お店の人も複雑な気持ちでしょうね。

宿が近くでしたし、ちょっと歩いてみた限りでは、
この辺りに普通の本屋さん(そう!普通の本屋さんです)はこの店しかなかったので、
是非ともゆっくり本を選びたかったのですが、
私が行った時にはとにかく大混雑で、それはとても不可能でした。

となると、私もお邪魔なだけの見物客になってしまうので、
なんだか店の中にいることが罪のように思えてきて、
店内をぐるっと一回仰いだだけで、そそくさと出てきてしまいました。

美しすぎるがために、取り巻きが多くて本当の恋人ができにくい、
古典物語に出てくる美女のような、そんな本屋さんでした。
(中身は人なつこくて、ごく普通の女性なんですけどね)

現在、店内での撮影は禁止されていますので、
内部の様子については、ネットで検索してみてください。
何せ有名な本屋さんなので、画像を探すのは容易いと思いますが、
一カ所だけリンクさせていただきました。

http://www.localporto.com/bookstore-world-porto-lello-irmao/

モヤーノ坂の古本屋

マドリードの王立植物園の南にクラウディオ・モヤーノ通りという
大きな坂道があって、その脇に常設の小さな小屋が軒を連ねています。

それらは全部店主の違う古本屋で、通称「モヤーノ坂の古本屋」と呼ばれています。

帰国日の朝、開店が何時なのかも知らないまま、10時にもなれば開くだろうと
モヤーノ坂を目指しました。

10時5分前ぐらいに到着して、開いていたのは一店だけ。
唯一オープンしているその店には、既に何人ものお客さんが集まってきていました。

私のように気が早い人たちが、とりあえず開店しているその店を物色しながら、
他の店が開くのを待っている様子・・・

「ちょっと早過ぎたかな・・・」

時間つぶしに近所を散歩して、戻ったのが10時半頃。
4〜5軒のお店が、ようやく開店準備を始めていました。

とりあえず、開いている店を端から順番に覗いてゆきました。
表に並べられているのは、ほとんどがいわゆるユースドの本で、値段設定も安めです。
古い本や貴重な本は小屋の中に置かれているので、
ウィンドウショッピングというわけにはいきません。
中に入るのに、ちょっとためらいを感じます。
なにせ狭いので、出店準備をしている店主の邪魔になる・・・

それでも、ためらっていては本当に面白そうな本は見られないので、
店主が外で作業をしている間にサササッと入り込みました。

が・・・店内はほとんど倉庫化していて、短時間で何かが見つけられるような
状況ではありませんでした。

そうこうしているうちに、店主が外に並べる本を取りに戻ってきて、
探索はその時点で終了・・・
そんな私に店主は「気にしないで、ゆっくり見ていってよ」というそぶり。

そこから会話が始まって、

「日本から来たの?うちの息子はさ、
いつも『ドラえもん、ドラえもん、ドラえもん』だよ。
まあ、僕も子供の頃は、マジンガーZが大好きだったけどね。
マジンガーZはかっこいいヒーローだけど、
なんでうちの息子はドラえもんなんだろう?
とにかくいっつも『ドラえもん、ドラえもん、ドラえもん』さ。」

そうですか、そうですか、スペインにも日本のアニメや漫画が
しっかり浸透しているんですね〜。
しかも、マジンガーZの時代からですか。

大方どこの国に行っても、日本のアニメや漫画の絶大なる影響力を肌で感じます。

私もマジンガーZ 世代だと伝えたら、「うそだろ〜」と大袈裟に驚いてくれたので、
大きいな声でお礼を言ってその店を出ました。

すると、なにやら人だかりができている店が・・・・

結局それは、10時前に唯一オープンしていた店でした。
開店時よりもさらにお客さんが増えていて、明らかに他の店とは一線を画しています。
つまり、他の店が開店していなかったために人が集まっていたのではなく、
その店が特別魅力的だから(それも、おじさま達にとって)だったようです。

再度その店を覗いてみると、店主らしからぬご老人が段ボール箱を開けては
中の本を取り出しています。
それを、周りのおじさま達が待ちかねたように物色していました。

異邦人の私には、何がそんなにおじさま達を魅了するのか、
到底計り知ることはできませんでしたが、
確かに、そのご老人が段ボール箱から取り出す本たちは、とても古びていて
明らかに一般のユースド本とは違うオーラを放っておりました。

結局、11時半を回っても、
半分以上の店は開く気配すらも感じられず、短期旅行者としてはタイム・アウト。

まあ、一部の店しか見られませんでしたが、
『こういうスタイルの古本屋もいいな〜』と思った次第です。

古本屋に限らず、例えばどこかの公園にこういう常設の小屋があって、
ある日は古本マーケット、ある日はファーマーズマーケット、ある日は・・・
というような使い方をしたら、地域の活性化にも繋がるんじゃないかしらと、
そして、そういうことは行政がやるべきなのではないか・・・などと、
つらつら夢想しながら帰路についたのでした。

(そういえば、チェコのプラハには、そういった常設の
マーケット・プレイス<小屋ではありませんが、屋根付きのブース>がありました。)

カサブランカの本屋

モロッコのカサブランカで立ち寄った本屋さん。

多分、この街では大きい方の本屋さんだと思います。
といっても、お店の規模や品揃えは、
日本でいえば「小さな街の小さな本屋さん」という感じ。

モロッコの公用語はアラビア語とベルベル語ですが、
元フランス領だったという経緯から、フランス語もよく通じます。

なので、この書店にも公用語の(主にアラビア語)の本と、
フランス語の本の両方が売られていました。
売り場は言語によってはっきり分かれており、
奥にはノートなどの文房具を売るコーナーもありました。

冊数は多くないものの児童書の棚もあって、
どちらの言語の本もありましたが、
フランス語の本はほとんどが本国から輸入されたものでした。
当然ながら国内で出版された公用語の本に比べると、値段もかなり高めです。

印刷製本技術もフランスの本の方が格段に上なので、
フランス語の本の売り場ばかりがなんだかピカピカして見えました。

そんなフランス語のピカピカな絵本を買ってもらえるのは、
やっぱりお金持ちの家の子供だけかな〜、などと思いながら棚を物色していると、
フランス本国ではとうの昔に絶版になってしまったタイトルを何冊も発見。
棚の下の方で新しいまま古書化しておりました。

独立から60年近くも経つモロッコですが、
高等教育は今でもフランス語で行われているそうです。
当然、高等教育を受けない人もいるので、
フランス語が話せない人も増えているということです。

今後、この本屋さんの売り場はどのように変化していくのでしょう・・・
どこの国でも本屋さんに行くと、その国の情勢が垣間見えます。

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